【創作】ずっとピアノを弾きたかった

ピアニストになりたかった僕は、幼少期から音と指を絡ませ、イソジンのように口に含み、だけどイソジンみたいに口からは吐き出さずに全てを飲み込んで来た

彼の全てが好きだったから
彼の全てに、なりたかったから

その旋律のひとつひとつが僕を安心に導き、
時折その旋律のひとつひとつがカギ括弧のように、
これは実際に相手の心を開く為の鍵では無いのではないかと不安になった夜も沢山あったのだけれど、
カギ括弧ならば、
「」ならば、
その音のひとつひとつがその時の彼の言葉だ

その時その時は、今も刻一刻と過ぎていき、
死ぬのが怖いのはあたりまえ体操だが
今が幸せなのも、壊れる時を想定して本当に怖い

もがき苦しみ、あがき続けて、やっと見えた光が目に刺さり、失明するような日々を歩いてきたよ

胃の中にあるのはいつも不安で、
動いた先にあった物は絶望だった

それなら、今の幸せな音が怖いのであれば、
未来に何も音が無いだとか、その音に潰されて最悪の結果になるだとか考えた方がよっぽど心が楽じゃないか

僕は何度も裏切られて来た
親しいと思っていた友人、仲間

だけども音楽が本当に好きだ
僕をピアニストにならせておくれよ

心配なのは分かっているさ
けど、僕はピアニストになりたいんだ
ずっとなりたいんだ
それで生きて行きたいんだ

じゃないと、心が死んでいくんだ

全ての音が、聞こえなくなるんだ

ピアノの前に立たせておくれ

何度でも、
ピアノ以外で僕を評価する奴が現れるだろう

そんな奴はピアノが上手く弾けないから、
ピアノから逃げているんだ。

ピアノの良さを知らずに、
美しいピアノを汚しているんだ

ピアノは言葉に似ている
個人個人の演奏に、作曲に、その人の人柄が出る
生き様が出る。生涯が出る

沢山の曲を弾きたい

だから、
ピアノを弾き続けたら今後
指を痛めるんじゃないかだとか、
楽譜で指を切って心からも血が出るんじゃないかだとか、
ピアノ盤の黒と白を見る度に吐き気がして、パンダの事も嫌いになっちゃうんじゃないかだとかパンダとは今後どう接して笹をあげていくのだとか

お願いだからさ、そんなのは言わないでよ

僕にピアノを弾かせておくれ
僕から譜面を取らないで

ピアノが弾きたいから、自ら雷に打たれに行ったんだ
とっても怖かったけど、まだピリピリしているけれども、
これでピアノが弾けるなら
嬉し涙で虹が描けるぐらいに嬉しいよ

作曲している時、
より良い曲を奏でようと披露しながら練っている時、
こんなにも幸せな事ってあるんだって思うんだ

僕が産声をあげたとき、その時に見た天井の風景なんかよりも、今、舞台から見つめるこの客席への風景を永久に記憶に残しておきたい。何度でもって、そう思うんだ

ピアノで悩める事が幸せなんだ
だって本気じゃないと、悩まないでしょ

僕は、今、この瞬間、沢山の場所でピアノを弾き続けられる事が、本当に生きる喜びで、この上ない幸せなんだ

ピアノをやり続けてたら君は傷付くんじゃないかと沢山言われてきたけれども、実際に僕は今も、ピアノを弾き続けている事によって息ができているよ

生半可な気持ちでやってない
僕を、生かしてくれた存在だから
僕もこの音で、必ず、誰かを救いたいんだ

僕にピアノを弾かせてくれよ