ガソリンスタンドの前で
思いっきり尿を漏らしてみたら、捕まった
凡人から離脱したかったんだ
平均点が取れれば良いと思って甘えてきたけれど、
もう僕は59歳
次は赤いちゃんちゃんこを着なければいけない。
なんでもできるように思えたのは気持ちだけで、
腰痛は、えぐい
腰、あるのかな？って思う時すらある
天井を見つめたって目眩がある
婚活パーティーに行くのは、もう飽きた
妻が亡くなって、放心状態になっていたんだ
そんな時、僕がまだ幼い頃、
その頃はガソリンスタンドが無かったんだけど
何かの前で尿を漏らしたら、
母親が、あらあらと言って拭いてくれたのを思い出したんだ
歳を取れば、叱ってくれる人もいない
なのに、16歳の頃に出逢った僕を、妻は叱ってくれた
叱り続けてくれた
スカスカな僕を、出来損ないの僕を、
何度も何度も、叱ってくれた
しかも母のような、愛を持って。
白馬の王子にはなれないけれど、
この人の支えになりたいと思ったんだ
ねえ、君は笑ってる？
なんでそんな事するのって笑ってくれてる？
僕は来年、
赤いちゃんちゃんこを着ないといけないんだ
君がいつも眺めてたお人形さんのような、
フリフリな服でも着ようか？
そしたら君は、笑ってくれる？
どうやったら、僕を叱ってくれる？
そう言いながらも、抱きしめてくれる？
「猫田さん、猫田さん」
名前を呼ばれて振り返る
「もう帰っていいですよ
いやはや、貴方の尿が鮮やか過ぎて、
ガソリンかと思ったものですから。
膀胱炎ですか？おむつをおすすめしますよ
生きやすく、これからも生きていって下さいね」
僕は家に帰って天井を眺める
妻の眩しい笑顔。優しい声、怒った顔
猫が外で喧嘩しているなあ 声でわかるよ
…眠るように天国へ行ったあの日
ぜんぶ綺麗
嘘みたいに。
嘘だったのかな、僕の人生なんて
あれ、なんだか息が苦しい
「馬鹿じゃないの？」
本当に透明なんだ。余計に綺麗になって
もう、女神じゃないか
「人を好きになるって、
馬鹿になるってことだろ？」
