【創作】揺れるブランコ

「悲しい時はね、
苦しいって思わなければいいんだよ」

公園のブランコを2人で漕いでいる時、
そんな事を加藤くんは悲しい顔をして言った

2人しておさがりのボロボロの青色のランドセル
おそろいと言う言葉も知らなかった小学二年生は7歳

「成人式で会おうね」

そう言って加藤くんはブランコから勢いよく降りた
私は急に駆けだした彼を追おうとしたけれど、靴のかかとを踏んでいたので顔面から転けた


私だって本当は赤色のランドセルが欲しかった。
だけど、だけどね、兄のおさがりを使う以外の道は無かったんだ。だから私は青色を好きになろうと頑張った。頑張ったけど、やっぱり赤色のランドセルが素敵に見えた





そんな私は就職した
高卒でも雇ってくれる、そんな素敵な工場に
初給料を貰った。ギュインギュインと言う機械音とはもうお友達になった
煩いけれど、言ってる事は正しい。たまに会う親戚のおじさんみたいに



初給料で赤いランドセルを買った

小さい頃からのトレンドマークのあたいのそばかすはいつだって消えない。鏡の前でピカピカのランドセルを背負う

やっぱり、ちょっと違うかった

あの時、皆がそんなに変わらない小さな背丈の中で、後ろから見たあの赤色のランドセルには、叶わないし届かない

棚の上にある荷物まで届くようになった私の170cmの背丈では、あの頃の憧れには届かない



ぬるくなった缶ビールとはお友達になれないなあ
熱血指導の草食系男子みたいだからとか思い、
やけになって、押し入れからあの時の青色のランドセルを探す。

アル中の親父は何か世の中について叫んでいた。
世の中はアル中について叫ばないのに、よくもまあ毎晩飽きずに叫び続けている事だ。それが貯金だったら最高なのにとか思いつつ、あの頃よりもボロッボロになった青色のランドセルを見つける


背負ってみようかなとは思わないけど、
なんとなくランドセルの内ポケットを手で探ってみる
だってあの時のどんぐりに会いたかったから。



中からぐしゃぐしゃになった1枚の紙を見つけた
加藤よりって書いてある


字は汚くて読めないけれども、
多分だいすきだよって書いてある




…加藤くん、
君は今、YouTubeでアンチコメントをしてきた子供達の住所を特定し晒しあげる、炎上系YouTuberをしているね

あの時ブランコに乗って取れなかった苦しさを、
大人になって、そんな事に活用してどうするんだい

君がそんな事をして捕まっちゃったから、成人式でももう会えないじゃないか

ぽろぽろと涙が流れてくる
何故かアル中の親父はぽろろんとギターを奏で始める

「…ランドセル、好きな色選ばせてやれなくてごめんな。大学にも、行かせてやれなくてごめんな」

私が小学四年生の時に離婚した親父が言ってきた

「今更だよ」

「母ちゃん、元気かなあ」

父ちゃんには言わないけどさ、前に母ちゃん青汁で健康になった人千葉代表としてTV出てたよ
今は千葉に住んでるんだって
なら、ディズニーランドには行ったのかなあ


かけていたテレビでニュースが流れる

かつては加藤くんだった炎上系YouTuberが目にモザイクかけられて、泣きながら訴えてる
成人式に、どうか行かせてくださいって。