【創作】未来の通学路

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「考えるな、感じろ」

試合前にそう言い放った体育教師は
お前はガードに徹しろ。それだけで良い。
と、上手くシュートが決まらない僕に、よくよく考えてその役割を与えてきた。

試合が終わり、無事に負けた僕達にアイツは
「お前達が色々と考えたからだ。
考えるな、感じろ」と言って、数学担当の女教師と肩を組んで帰った。
以前の試合終わり「先生、新婚旅行どこに行くんですか?」と同期の高宮君が質問したら、「一生に一度の事だからな。まだ考え中だ」と言われていた


バスケ部の皆で首を傾げながら帰るいつもの通学路

「やっぱり指導者が良くないと思うんだよね」

なんて、眼鏡をかけた田中くんが言う
僕はまだバスケットボールのルールを理解せずに、試合中ボールを持ったまま止められるまで叫びながらコート内を走り続ける田中くんのせいだとは思うんだけれども、そうだよねーと応えといた

田中くんからは、野良猫の手懐け方と感情だけで動いても上手くいかない事の方が多いと言う大切な事を学ばせてもらった

見上げた空は青くて、
動く雲のスピードは僕らよりも速い

思えばもう僕らは中学3年生になった
この3年間で彼女ができた子もいれば、勉強に集中したいと辞めていったバスケ大好きのあのたけしくんも、受験のストレスで今は痩せ細ってる

かつての仲間だから、今でも廊下ですれ違うとたけしくんにはおはようって挨拶するんだけど、
パキスタンサウジアラビア
としかいつも返されなくて、しんどいんだなあって思う

いつできるか分からない彼女の話や、信憑性の無い学校の噂話を、その話題を解決する事もなくぴょんぴょんうさぎみたいに話題の変わる亀よりも歩くスピードの遅い僕らを見守る誰かさんとやらは、なんて思ってるんだろうね

もうすぐ僕らは離れ離れになるんだろう
みんな違う高校へ行って、たまたま同じ集団で喋る奴らがいなくてだらだらと同じ時間を過ごすただの仲間だから。友達では、多分無いんだ

高宮くんが言った
「なあ、俺達ずっと親友でいような
大人になったら3人で温泉旅行にでも行こうぜ
車かバイクの免許でも取ってさ、そん時には俺らにも恋人はいるだろうから誰が早く結婚するか博打でもして、それから皆に子供が1人ずつできてさ、その子供達が、また俺らみたいに3人並んで通学路を渡ってるんだ」

いつもの帰り道のはずなのに、
僕はボロボロと泣いてしまった

僕は男なのに男の子の事が好きだから、それを知って彼女では無くちゃんと恋人って言ってくれてるんだね

高宮くんが言った
「俺は児童養護施設出身で今は親に引き取られたけど、正直嫌な事の方が多いよ。家事とか全般やらされるし、引き取ってやったんだから働いた金は家に入れろよって。だからさ、俺お前が父ちゃんなら最高だって思う時があるんだよね」

田中くんは俯いて、僕はそれを聞いて驚いた

涙に濡れた自分の眼は光の反射でキラキラと輝いて、じゃがいもみたいな高宮くんが菅田将暉に見えた

僕は2人に言った

「僕のこと、いっぱい考えてくれてるんだね」

2人は声を揃えて言った

「感じているんだよ」